五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

航空会社にとっての羽田再拡張のタイミング

 気を取り直して、こんなニュースを扱っておきます。

日航、ブラジル企業と航空機購入契約

http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20071224AT1D2401M24122007.html

 このニュースは、例によって大石先生の所から拾ってきたのですが、その大石先生はこんなコメントを付けています。

>約20人のパイロット付きでエ社と小型ジェット機15機

 日航さんには長期計画とか見通しとか無かったのでしょうか。それにこんな複数メーカー採用してメンテコストの増大とかどうすんの? 中国に丸投げすれば済むという問題じゃないでしょう。

 JALとしては、出来れば国内導入事例の殆どないエンブラエル機の導入は避けたかった事でしょう。しかし、2010年10月に予定されている羽田再拡張を前にして、亜幹線やルーラル線の増便・新規就航で発着枠を確保する為には、100席未満クラスの機材が必要不可欠です。現在、JALグループは小型機・中型機のボーイング機への片寄せの真っ最中ですが、ボーイングの旅客機には100席未満クラスのラインアップがありません。それ故、オペレーティングコストの増大を甘受してもなお、他メーカー機材の導入に踏み切らざるを得なかったのです。
 今回の航空機購入契約では、運航乗務員の確保という条件が付加されています。これは、他社との相見積もりにおいてJALエンブラエル社から引き出したものなのでしょうが、逆に言えばそれだけJALの小型機事情は切羽詰まっているという事です。オペレーティングコストだけではなく、新たに増えるであろう労使問題の面からも、これからのJALには悪い意味で注目せざるを得ません。



 なお、ERJ170と同セグメントの70席クラス旅客機には、ボンバルディアCRJ900や三菱重工業MRJといった競合機があります。短距離路線での利用に限って言うなら、ボンバルディアDHC-8-400も十分に競合します。そんな中で、JALジェット機としては初となるエンブラエル機の導入に踏み切ったのには、以下のような理由が考えられます。

  • ボンバルディア機は、度重なるDHC-8-400の運航トラブルにより、イメージが悪くなっている。
  • 5機分のオプション枠については、利用状況によりERJ190などの大型機に変更可能。
  • MRJのロールアウトを待っていては、2010年の羽田再拡張に間に合わない。
  • 旧東側諸国の旅客機は、メーカー名だけで旅客の不安を十二分に煽る。

 既にJ-AIRでCRJ200を運航している事もあり、ボンバルディアのイメージさえ悪くならなければCRJ900の方が有利だった事でしょう。しかし、ボンバルディアのイメージ回復を待っていては、これまた羽田再拡張に間に合わず、多くの乗客をANAや新規航空会社に逸走させる事に繋がってしまいます。「ブラジル機」というのも決していいイメージは広まっていませんが、ボンバルディアみたいに悪い意味で知名度が広がっているよりはマシという事なのでしょう。
 JALがブラジル機に手を出してでも羽田再拡張に間に合わせるのには、羽田空港発着枠の大原則に、「使用していない発着枠は没収される」というルールがあるからです。言うまでもなく、羽田空港の発着枠はANAや新規航空会社だけでなく、世界中の航空会社が隙あらば確保せんと目をぎらつかせています。一応、2010年時点では国内線メインという事でJALにも相当程度の追加配分があるものと思われますが、ここでJALがその発着枠を使い切れないという事になれば話は別です。国内競合他社がJALからの発着枠剥奪を申し立てるのは勿論の事、海外航空会社も年間3万回程度とされている国際線枠の大幅な追加を要求してくる事でしょう。慣例上、一度国際線に割り振った発着枠を国内線に切り替える事は非常に困難ですから、2010年10月に使える限りの発着枠を獲得し、しかもそれを使い切らなければ、JAL羽田空港におけるイニシアチブを永久に失う事になるのです。



 前掲の大石先生の記事では、同日のニュースとしてこれも取り上げられています。

スカイマーク20機に倍増、羽田拡張の10年度めど

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/news/20071225tb01.htm

 ここで注目すべきは、中部=新千歳・福岡・那覇や神戸=新千歳などの幹線・亜幹線に混じって、何故か羽田=旭川という格落ちの路線が就航計画にある事です。輸送人員だけでみれば、毎年94万人と東京=富山や大阪=鹿児島並みの中堅路線ではありますが、観光需要がメインである事を考えれば、イールド面では他の路線に比べて格段に不利である事は間違いありません。
 これはあくまでも私の邪推ですが、スカイマーク旭川就航は2010年の羽田再拡張までの繋ぎではないでしょうか。スカイマークは、「第二の創業」に伴う大規模な路線再編で国土交通省に睨まれていますから、現時点で羽田=福岡・新千歳・那覇といった路線を増便する事は、政治的に余り得策ではありません。しかし、2010年の羽田再拡張時には、流石に国土交通省スカイマークに発着枠を追加配分せざるを得ません。この時は既得の発着枠に上乗せとなりますから、元の発着枠が多ければ多いほど、再拡張後の羽田で有利な戦いを繰り広げられる事になります。
 とあれば、機材に余裕があるのであれば、羽田=青森ほど収益を圧迫せず、一方で鹿児島のように地元が撤退に横槍を入れてこない路線で発着枠をキープしておくのが、一番の得策です。新規航空会社向けの羽田特別枠は幹線に転用する事が出来ませんが、実質的に幹線である羽田=神戸への転用は可能です。スカイマークは、この抜け道を利用して、2010年の羽田再拡張と同時に羽田=旭川の発着枠を全て羽田=神戸に転用し、純粋な増枠分は幹線だけで消費する心算なのでしょう。



 こうなると、俄然気になるのがANAの動き方です。小型機については、ジェット機はB737NG、プロペラ機はDHC-8-400という片寄せのターゲットが既に確定しているのですが、両社の中間に位置する100席クラスの航空機は導入予定がありません。スカイネットアジアやAIR DOなどの子会社を見ても、やはりこのセグメントは空白域となっています。B737-781(136席)ではロードファクターを確保できない路線は開設しないという方針を貫くのであれば話は別ですが、ひょっとしたら近い内にANAからも新機材導入のアナウンスがあるのかも知れません。
 伊丹=高知で胴体着陸機を復活させようとした所からして、ANAにしても小型機の台所事情が苦しいのは同じです。羽田にDHC-8-400を持ち込むのか、エンブラエルに手を出してみるのか、はたまたCRJ900を導入してみるのか、今から注目です。まぁ、最大のサプライズは、羽田再拡張の再延期でMRJのロールアウトにドンピシャリというオチですが。