五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

それでも伊丹は廃港できない

 さて、大分出遅れた感のある話ですが、一応触れておきます。

○橋下府知事、今度のターゲットは大阪空港…廃止論

http://www.sponichi.co.jp/osaka/soci/200808/01/soci213602.html

 私自身、古式床しき泉ズリアとして伊丹廃港を何度となくブロハラで唱えていますし、現在でも伊丹空港は本来廃港すべきものであると信じて已みません。しかし、実際に廃港できるかどうかとなると、私はその実現可能性をかなり疑問視しています。現在の伊丹空港は、廃港すべきなのに廃港できない状態なのです。



 伊丹空港は、過去に3度廃港の好機がありました。それは、以下の3つです。

  1. 関西国際空港供用開始(1994年9月4日)
  2. 神戸空港供用開始(2006年2月16日)
  3. 関西国際空港2期暫定供用開始(2007年8月2日)

 しかし、その3度において、伊丹廃港が実現する事はありませんでした。言うまでもなく、伊丹と関空とを比較すれば圧倒的に伊丹の方が便利な場所にあるからです。これは、伊丹と神戸とを比較した時も同じであり、大阪都心部から最も早く、且つ最も安く辿り着ける伊丹空港の前には、関空も神戸も完全に霞んでしまいます。それでもなお関空が国際線の拠点たり得ているのは、成田空港と同様、全ての国際線が伊丹からの移転を強制されたからです。その国際線ですら、欧米線についてはほぼ壊滅状態で、実質的に関空は対特亜専用空港にまで落魄れているのです。
 今から思うに、伊丹廃港がズッコケた最大の敗因は、関空開港時に伊丹廃港の停止条件を設定しなかった事です。確かに、関空開港当初は国内線のキャパシティも少なく、伊丹空港を廃港してもその旅客需要・貨物需要を全て関空で受け入れる事は不可能でした。しかし、当時は今よりも立派な2期構想も存在したのですし、将来需要予測についても現在より遙かに杜撰な見積もりが罷り通る時代でしたから、「伊丹廃港を前提とした2期工事」なんて話も可能だったのです。それを怠り、交通警察用語で言う所の「漫然と」という表現そのままに伊丹空港を供用し続けてきたのですから、利用者や地元自治体が伊丹空港の存在を「既得の権利」と錯誤するのも当然でしょう。
 伊丹の存在を当然とする錯誤は、即ち関空や神戸の事業推進への批判にもなります。伊丹の利便性が恒久的なものであるとし、その利便性を現に享受しているのであれば、関空や神戸への強制移転による利便性の低下に強い拒否感を覚える事になります。ましてや、関空も神戸も「本来は存在しないはず」の伊丹の存在によって利用実績が伸び悩んでいるのですから、その拒否感も一入です。そんな拒否感によって関空2期は暫定的な運用に留まり、現在もなお伊丹空港の国内線を丸々受け入れられる状態にないのですから、お話になりません。
 もし、これから橋下徹府知事が伊丹廃港を断行しようとするのなら、先ずは利用者や地元自治体が伊丹空港を「当然の存在」としている錯誤を解く事から始めなければなりません。そして、その時には、「伊丹の残し方」「関空の育て方」それぞれが失政によって本来あるべき姿から懸け離れてしまっている事についても、橋下府知事自らが説明責任を負わなければなりません。大阪府が「伊丹を切り捨ててでも関空と心中する」という決意を顕わにすれば、「伊丹空港は西日本における国内航空交通の拠点であり……」などとお茶を濁している国土交通省も、漸く本格的な関空積極策に出られる事でしょう。



 とはいえ、ここまでド派手な伊丹廃港の大見得を切る事が正しいのかどうかとなると、少し冷静に考える必要があります。というのも、関空開港後も10年以上そのまま存続してしまった伊丹の存在を踏まえるに、最早関空コンコルドの誤りに陥っているとも考えられるからです。

○★管理会計屋の学習帳 コンコルドの誤り

http://blogtom2005.blog15.fc2.com/blog-entry-258.html

 確かに、関空はあらゆる騒音公害から逃れた世界初の本格的な海上空港であり、その背景には伊丹空港の運用を大幅に制限する事となった大阪国際空港騒音訴訟があります。しかし、関空の建設が決定された当時と現代とでは、これだけ背景事情が異なります。

  • 関空建設決定当時、近畿圏の航空需要は国内・国際とも半永久的に成長し続けると思われていた。
  • 高騒音機が軒並み退役し、羽田=伊丹線においてすらほぼ全ての便がB777などの双発低騒音機で運航されるようになった。
  • 一般市民の空港に対する理解が進み、当初関空の設置がならなかった神戸市においてもポートアイランド沖に空港を開港できるほどになった。
  • CO2の排出に対する国際的な圧力が高まり、輸送部門における自動車や航空機が環境推進派から白眼視されるようになった。
  • 地上交通機関の発達により、従来よりも遙かに広汎な地域を地上交通機関で分担する事が可能になった。
  • 東京一極集中の進展により、大阪に国際線の目的地としての魅力がなくなった。
  • 羽田空港の再拡張により、深夜・早朝を利用しての国際線の就航が可能になった。

 つまり、伊丹空港の存在による地元負担は往時より大幅に軽減されていると同時に、大阪が維持しなければならない国際線ネットワークも往時より大幅に縮減されているのです。こうなると、抑も関西国際空港を建設しなければならなかった理由自体が否定されたのも同じであり、利子負担や地盤沈下などを考えると、廃港すべきは伊丹ではなく関空であるという意見すら罷り通ってしまうのです。
 勿論、現在の伊丹+関空の航空需要を伊丹だけで賄えるはずもありませんから、関空の廃港に当たっては、以下のような荒療治が必要になります。

  • 東京線・福岡線など、現在既に新幹線で代替できるもの、または熊本線・鹿児島線など将来的に新幹線で代替できるものについては、その就航を禁止する。
  • プロペラ機・ジェット機でそれぞれ定められている発着枠を一本化し、現在プロペラ機で多頻度運航されている路線については、ジェット化によって便数を削減する。
  • 国際線の運航は、支那・南鮮から台湾・香港までの近距離路線に限定し、中長距離路線については、例外的に成田乗り継ぎ便を運航する事により、成田発着での対応とする。

 ここまで徹底すれば、現在の伊丹空港の発着枠でも何とか航空需要を捌ききれますし、国際線利用者にとっては空港のアクセス/イグレスコストが大幅に安くなります。しかし、一方で近畿圏の航空需要は大きく萎縮する事になり、また一方で大阪が浦東や仁川のスポークに成り下がってしまう危険性がいよいよ現実のものとなります。尤も、支那・朝鮮線であれば、現状でも21時から翌7時までの間に発着する便は1つもありませんから、実は現状と殆ど変わらなかったりするのです。
 あとは、国や大阪府のやる気の問題です。コストを惜しんで航空需要を削るか、航空需要を温存すべく伊丹廃港の大鉈を振るうか、それを判断するだけです。尤も、CO2排出量の削減という意味では、関空廃港の方が削減量は明らかに多くなるんですけどね。