五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

車椅子は急に止まれない

 昨日、最寄り駅から帰宅していた時の事です。ケータイでmixiを巡回しながら歩いていた私の横を、1台の車椅子が颯爽と駆け抜けて行きました。時速にすれば8km/hから10km/hほど、ジョギングと同じくらいのスピードです。
 私は、別に「障害者は障害者らしく大人しくしていろ」などという考え方の持ち主ではありませんから、こういう元気のある障碍者が増えてくるのはいい傾向だと思っています。下肢に障碍があるとしても、必ずしも腕力を含めた上半身にまで障碍があるという事ではありませんから、東京マラソンに出場するようなトップアスリートでなくても、ながら歩きをしている私を追い抜くくらいのスピードを出せる人がいるのも、当然の話です。
 しかし、こういう「元気な障碍者」について、私はちょっと心配になってしまいます。というのも、いざという時の危険回避能力において、どうしても障碍者は健常者に劣るからです。そして、障碍者であるが故に、健常者であれば回避し得たであろう事故を回避できないケースが、「元気な障碍者」によって増える危険性があるのです。
 ノーマライゼーションの精神からすれば、障碍者が健常者と同等のモビリティを持つ事は、寧ろ目指すべき事であります。車椅子一つとっても、介助者に押してもらう事を前提とするのではなく、障碍者が自ら操作して移動できる設計にするのは、当然にしてノーマライゼーションの精神から要求される事です。そして、その時に健常者の歩行速度と同等の速度を確保できるようにするのも、またノーマライゼーションの精神に適った事でしょう。
 しかし、ここで冷静に「徒歩」と「車椅子」との違いを考える必要があります。徒歩があくまでも人間の足によるものであるのに対して、車椅子はあくまでも「車」です。道路交通法上、車椅子は軽車両ではなく歩行者として扱われていますが、人力によって駆動する車両であるという事については、自転車も車椅子も何等変わりないのです。つまり、10km/hで走行している車椅子を制動するのは、10km/hで走行している自転車を制動するのと、基本的にやる事は同じなのです。
 昨今、ノーブレーキピストによる人身事故が多発し、警察も本格的な取り締まりに乗り出しています。

○ブレーキ外しファッション優先? 競技自転車「ピスト」 公道走行は道交法違反

http://www.shimotsuke.co.jp/town/life/safe/news/20110219/459774

 言うまでもなく、ブレーキを備え付けていない自転車は道路交通法違反として摘発の対象となりますが、道路交通法上「歩行者」とされている車椅子は、当然ながらこうした規制の対象にはなりません。しかし、下肢に障碍のある「元気な障碍者」であれば、腕力に物を言わせて10km/h以上のスピードを車椅子で出す事は、そんなに難しい事ではありません。現在の道路交通法は、「どうせ車椅子が猛スピードで走る事なんかないだろう」という考え方に立脚していますから、「高速化した車椅子」には対応できていないのです。
 となれば、車椅子利用者の安全は、車椅子利用者自身で守るしかありません。車椅子マラソンなどで使用する本格的な競技用車椅子ならいざ知らず、通常の車椅子を8km/hなり10km/hなりで走らせようというのなら、きちんとそのスピードを自分で制御し、いざという時には足ブレーキ*1ならぬ手ブレーキで急停車できる腕力を備え付けておく事です。出会い頭の衝突事故において、車椅子自身が急に止まれないのと同様、或いはそれ以上に、自転車や自動車は急には止まれないのです。障碍者として日常生活に苦労しているのであればこそ、無用な交通事故で新たな障碍者を自ら生み出さないよう、車椅子利用者には自制して欲しいものです。
 因みに、私の横を全速力で追い越していった車椅子は、そのまま正面にある丁字路にもノーブレーキで突入していました。目の前で事故が起こらなかったのは僥倖としか言いようがありませんが、私自身が自動車や自転車を運転する際は、「最近は高速な車椅子も増えている」という事に十分注意したいと思います。何せ、車椅子との交通事故を起こしてしまった日には、過失割合で車椅子側が圧倒的有利ですからね。

*1:当然ながら、自動二輪における後輪ブレーキの事ではなく、「逮捕しちゃうぞ」における辻本夏美の足ブレーキの事です。