さて、今月1日を以て全機が退役してしまったJALのB747シリーズですが、その退役の背景について海ラジさんがこんな記事を書いています。
○ジャンボジェットは本当に「燃費が悪い」のか?・・・JALジャンボついに完全引退
【国際線】B747-446の場合
一昔前のJALは、「国際線と言えばジャンボジェット」と言っても過言ではないほど、そのフリートがB747シリーズで埋め尽くされていました。その理由は簡単で、B747以外に長距離運航が可能な機材が殆ど存在しなかったからです。一応、DC-10やMD-11といった3発機も少なからず導入されていましたが、ある程度のペイロードを確保しようとするなら、B747シリーズ以外の選択肢はなかったのです。
この状況が変わったのは、ETOPSを取得したB777-300ERがデビューしてからです。ベリー貨物の積載量においてB747-400を上回り、燃費面でも1割程度B747-400より優れているB777-300ERの登場により、長距離国際線の主役は一気にB747-446からB777-346ERへと変わりました。最新のファーストクラスやエグゼクティブクラス、或いはプレミアムエコノミーなどは全てB777-346ERに搭載され、機内設備面でB747-446は放置プレイされるに至ったのです。
それでも、リゾート路線華やかなりし頃であれば、JALWAYSのクラシックジャンボをリプレースして使い倒すという選択肢が考えられました。しかし、2001年の米国同時多発テロや2002年のSARS問題などで一気に国際線需要が冷え込み、JALグループのリゾート路線はバタバタと廃止に追い込まれました。その結果、エコノミークラスの薄利多売で凌いでいたB747-446は「いらない子」認定を受けるに至り、遂に「経営再建のシンボル」の犠牲者になってしまったのです。
ここで、B747-446をB777-346ERにリプレースした時の輸送力低減を考えてみると、実はそんなに大きなダメージはなかったりします。例えば、主に東京=ニューヨーク線で使われていたL04を現在の主力であるW82と比較してみると、こんな感じです。
- B747-446/L04
- ファーストクラス:11席
- エグゼクティブクラス:91席
- エコノミークラス:201席
- 合計:303席
- B777-346ER/W82
- ファーストクラス:8席
- エグゼクティブクラス:77席
- プレミアムエコノミー:46席
- エコノミークラス:115席
- 合計:246席
総座席数こそ約2割の減ですが、エグゼクティブクラス以上で見れば16.6%の減ですし、プレミアムエコノミー以上で比較すると寧ろ座席数は増えていますから、ユニットレベニューでは寧ろL04よりもW82の方が高くなりやすいのです。
同様に、主に東京=ロンドン線で使われていたL02を現在の主力であるW73と比較してみると、こんな感じです。
- B747-446/L02
- ファーストクラス:11席
- エグゼクティブクラス:77席
- エコノミークラス:235席
- 合計:323席
- B777-346ER/W73
- ファーストクラス:9席
- エグゼクティブクラス:63席
- プレミアムエコノミー:44席
- エコノミークラス:156席
- 合計:272席
こちらは、総座席数での減少率をエグゼクティブクラス以上限定での減少率が上回っていますが、やはりプレミアムエコノミー以上で見れば座席数が大幅に増えていますから、ユニットレベニュー面ではW73の方が優れているという計算になります。
これらの数字を見て分かるのは、B777-346ERへのリプレースによってエコノミークラスの座席数が大幅に減っているという事です。元々、長距離国際線において主たる収入源となるのは、ビジネスクラス以上の有償旅客及び航空貨物であり、エコノミークラスなど航空会社にとってはあってもなくてもどうでもいい目蒲線存在なのです。だからこそ、航空会社はエコノミークラスを二束三文で旅行会社に卸せるのですし、それを利用して庶民も気軽に海外旅行できたのです。しかし、どうせ二束三文にしかならないエコノミークラスであれば、その分を削減してしまって運航コストも減らしてしまった方が、航空会社にとっては美味しい話です。これが、海ラジさん言う所の「金融屋的発想」なのです。
今から思えば、関空からロサンゼルスやロンドンにデイリーで3クラス機が飛び、札幌や福岡からデイリーでホノルル便が飛んでいた10年前は、ある意味「異常」だったのかも知れません。航空会社に余裕があればこそ、こうした冗長な路線で利益に繋がる需要を掘り起こす事も可能だったのであり、短期的に利益を上げる事を求められる今般、こうした路線がジャンボジェットと共に淘汰されるのは、仕方がない事なのでしょう。それにしても、寂しい話ではありますが。
【国内線】B747-446Dの場合
中長距離線で使用可能な機材が限られていた国際線とは異なり、国内線ではB777-246やB777-346といった機材が1990年代から運用されてきました。しかし、2000年代初頭くらいまでの間、なおB747-446Dは国内線におけるフラグシップであり続けました。その状況が変わってきたのは、2002年から段階的に始まったJAL・JAS合併の頃からです。
現在、私の手許には2000年頃からの国内大手3社の時刻表があります。そこで、JJ合併前の2001年(10年前)、JJ合併が落ち着いた頃の2006年(5年前)、そして2011年(現在)と、それぞれの4月ダイヤで主要路線の便数(往復)を比較してみました。注釈で、その機種別内訳も記載しておきます。
2001年
路線 | JAL | ANA | JAS | 計 |
---|---|---|---|---|
HND/ITM | 6*1 | 8*2 | 6*3 | 20 |
HND/KIX | 6*4 | 7*5 | 2*6 | 15 |
HND/CTS | 13*7 | 13*8 | 11*9 | 37 |
HND/FUK | 13*10 | 14*11 | 10*12 | 37 |
HND/OKA | 8.5*13 | 7*14 | 4*15 | 19.5 |
HND/KMQ | 3*16 | 4*17 | 4*18 | 11 |
HND/HIJ | 3*19 | 7*20 | 5*21 | 15 |
HND/KOJ | 4*22 | 5*23 | 4*24 | 13 |
2006年
路線 | JAL | ANA | 計 |
---|---|---|---|
HND/ITM | 14*25 | 14*26 | 28 |
HND/KIX | 7*27 | 8*28 | 15 |
HND/UKB | 5*29 | 2*30 | 7 |
HND/CTS | 19*31 | 22*32 | 41 |
HND/FUK | 19*33 | 18*34 | 37 |
HND/OKA | 11.5*35 | 8.5*36 | 20 |
HND/KMQ | 6*37 | 5*38 | 11 |
HND/HIJ | 7*39 | 8*40 | 15 |
HND/KOJ | 7*41 | 6*42 | 13 |
2011年
路線 | JAL | ANA | 計 |
---|---|---|---|
HND/ITM | 15*43 | 15*44 | 30 |
HND/KIX | 3*45 | 9*46 | 12 |
HND/UKB | 0 | 3*47 | 3 |
HND/CTS | 18*48 | 26*49 | 44 |
HND/FUK | 18*50 | 18*51 | 36 |
HND/OKA | 14*52 | 10*53 | 24 |
HND/KMQ | 6*54 | 5*55 | 11 |
HND/HIJ | 8*56 | 9*57 | 17 |
HND/KOJ | 8*58 | 10*59 | 18 |
こうして見ると、JJ合併で幹線の便数が一気に急増している事が一目瞭然です。元々、JALとJASとは亜幹線・ローカル線で同程度の規模であり、両社を合計したものがANAの規模とほぼ一致するような状態でした。しかし、幹線に限って言えば、JAL・ANAがほぼ同規模で、それよりも若干小規模なのがJASといった感じです。ここで、JAL・JASが合併してしまえば、幹線だけANAと不釣り合いになってしまうのは、自明の理でしょう。
となれば、便数が増えた分、機材を小型化して供給量の適正化を図る事になります。当然、ターゲットになるのはB747-446Dです。従来のB777-246やB777-346にリプレースするのは勿論、JJ合併で手に入ったB777-289も幹線用の貴重な機材です。幹線をこうした機材で置き換える一方、亜幹線はというとやはり両社の便数を足すとB777-246以下が適正サイズという事になってしまい、いよいよB747-446Dは行き場を失ってしまいます。
ここに、4発機の伊丹空港乗り入れ禁止やB777-246への国内線ファーストクラス設置が、留めを刺しました。この時点で、JALの国内線フラグシップ機材も、完全にB747-446DからB777-246へと変わったのです。そして、B777-246/B777-346の普通席が3-4-3アブレストに改悪されるに至り、B747-446Dのキャパシティはそんなに必要とされなくなってしまったのです。
結局、2006年以降B777-246/B777-346が揃ってクラスJ増席改修を受けたのに、B747-446Dは改修のないまま退役する事になってしまいました。恐らく、2006年の時点でB747-446Dの退役は既定路線だったのでしょう。それは、クラスJ増席改修の話すら出て来なかったA300-622Rについても、ひょっとしたら同じ事だったのかも知れません。
以上、国際線・国内線とB747シリーズの置かれた状況を見てきましたが、やはり昨今のJALにおいてジャンボジェットはオーバーキャパシティだったと結論せざるを得ません。そして、ジャンボジェットの退役そのものについては、恐らく経営破綻のずっと前から既定路線だったのでしょう。ただ、B787-846の就航が遅延し続ける間にジャンボジェットを全機退役させなければならなくなったのは、経営破綻の影響があるのかも知れません。
JJ合併前の旧JAL時代にJGCの仲間入りをした私としては、やはり「JALと言えば鶴丸ジャンボ」というイメージが強く残ります。このまま行けば、B787とほぼ同時期にB747-8も普及し始めますから、是非経営再建後のJALにはB747-846も保有して欲しいものです。「経営破綻したJALにジャンボなんて要らないよ」なんて言われなくなる日こそ、真にJALが復活を成し遂げた日であると言うべきでしょう。
*1:744×6
*2:747×4+773×1+772×2+763×1
*3:772×5+AB6×1
*4:744×1+773×2+D10×1+763×1+762×1
*5:744×1+772×1+763×4+320×1
*6:M90×2
*7:744×3+747×3+773×4+772×1+D10×1+763×1
*8:744×6+747×5+773×1+763×1
*9:772×7+AB6×4
*10:744×4+773×2+772×4+763×3
*11:744×10+747×1+763×2+762×1
*12:772×9+AB6×1
*13:744×3+773×1+772×1+763×2+JTA734×1.5
*14:744×2+747×3+772×1+763×1
*15:AB6×2+AB3×1+M90×1
*16:773×2+763×1
*17:747×1+773×1+772×1+763×1
*18:AB6×4
*19:772×1+763×2
*20:773×2+772×4+763×1
*21:AB6×1+AB3×3+M90×1
*22:772×1+763×3
*23:747×1+773×2+772×2
*24:AB6×4
*25:773×6+772×8
*26:773×7+772×7
*27:AB6×1+763×5+734×1
*28:772×1+763×1+321×1+320×4+735×1
*29:772×1+767×1+SKY737×3
*30:763×2
*31:744×5+747×1+773×3+772×5+763×5
*32:744×10+773×3+772×1+320×1+ADO763×8
*33:744×2+773×4+772×10+763×3
*34:744×7+772×4+763×7
*35:744×7+747×2+734×1+JTA734×1.5
*36:744×6+773×1+321×1+735×0.5
*37:744×1+773×1+772×1+763×3
*38:772×3+763×2
*39:772×2+AB6×2+763×1+M90×2
*40:744×1+763×6+320×1
*41:772×3+AB6×3+763×1
*42:773×1+772×4+763×0.5+320×0.5
*43:772×11+763×4
*44:773×6+772×4+763×4
*45:738×1+JEX738×2
*46:772×2+763×2+735×1+SFJ320×4
*47:763×2.5+320×0.5
*48:773×3+772×11+763×1+JEX738×3
*49:744×7+773×5+772×1+763×2+ADO763×8+ADO735×3
*50:772×12+763×6
*51:744×5+773×3+772×7+763×3
*52:773×4+772×5+763×3+JEX738×1+JTA734×1
*53:744×7+772×1+763×1+737×1
*54:772×1+763×4+JEX738×1
*55:772×3+763×2
*56:M90×7+JEX738×1
*57:772×6+763×3
*58:763×5+M90×2+JEX738×1
*59:772×3+763×3+SNA734×4