五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

現行スキームで長崎新幹線を建設する方法

 さて、7年前の時点からかなり迷走が続いている案件です。

佐賀県知事佐賀県は新幹線整備を求めたことはなく、現在も求めていない」とその反応 - Togetter

https://togetter.com/li/1343010

 一応、Twitter上では都度都度私見を述べてきましたが、私は基本的には全線フル規格推進派です。但し、その大前提として「現行法令や慣習上のスキームに則り、沿線自治体が財政負担するならば」というものがあります。そして、沿線自治体が財政負担を拒否している以上、プロジェクトとして成立しませんから、スーパー特急ミニ新幹線という代替整備方式に逃げる事なく、武雄温泉=長崎を含めて建設を中止すべきであると考えます。

 山口祥義知事は、「負担ゼロでも認めない」と財源論へのすり替えを真正面から否定し、一切の交渉を拒否する姿勢を見せています。これは、新鳥栖=武雄温泉がフル規格で建設されてしまうと、現在全国でも屈指の運行本数を誇る博多=佐賀の在来線特急が大幅に削減され、2枚きっぷで高速バス並みに抑えられている運賃水準も大幅に上昇する事が明白だからです。また、上下分離方式の導入により先送りされている並行在来線の経営分離も、所詮「20年後に作動する時限爆弾」に過ぎませんから、何れ肥前鹿島駅を要する鹿島市が大騒ぎする事になります。

 となれば、佐賀県長崎新幹線の着工に同意する条件は唯一つ、現在の在来線特急の利便性を恒久的に保証する事です。具体的には、新鳥栖=武雄温泉の開業後も以下の条件が満たされるよう、長崎新幹線を建設しようとする者が財政的に保証する事です。

  1. 長崎新幹線の全線開通後も、長崎本線佐世保線の全線をJR九州が運行する。
  2. 博多=佐賀で毎時3本、博多=肥前鹿島及び博多=佐世保で毎時1本の在来線特急を運行する。
  3. 現在発売中の2枚きっぷは、長崎新幹線の全線開通後も現在の価格水準を維持する。

 ハッキリ言って、JR九州にとっては二重投資もいい所ですし、並行在来線での特急運行は北陸新幹線でも明確に拒否されています。当然、JR九州が身銭を切ってやる訳がありませんし、ここまでの条件を呑まされるとなればJR九州長崎新幹線不要論に傾いてしまいます。だからこそ、これらの条件を満たす為に必要な投資や経費は、行政が支援する必要があります。

 では、誰がその財政負担を受け容れるべきかですが、当然ながら佐賀県ではありません。勿論、佐賀県内の地域輸送の確保が目的である以上、国土交通省が財政負担すべき案件でもありません。となれば、長崎新幹線による直接かつ最大の受益者である長崎県が、その第一の負担者となるべき事は、論を俟たないでしょう。そして、長崎新幹線を必要としていない佐賀県内においても、例外的にその恩恵を受ける事になる武雄市嬉野市も、長崎県と連帯して財政的な責任を負うべきです。

 ここまで条件を満たして、初めて長崎新幹線本体の財源論に話を進める事ができます。しかし、大前提として「佐賀県は新幹線の整備を求めていない」訳で、当然ながら法令に則った佐賀県の財政負担を期待する事はできません。一方で、整備新幹線の建設に係る財政負担は、全国新幹線鉄道整備法第13条や全国新幹線鉄道整備法施行令第8条に規定されていますから、佐賀県の財政負担を軽減する為にこれらの規定をねじ曲げる事は許されません。となれば、現行法令で注目すべきは、全幹法第13条第2項です。

2 都道府県は、その区域内の市町村で当該新幹線鉄道の建設により利益を受けるものに対し、その利益を受ける限度において、当該都道府県が前項の規定により負担すべき負担金の一部を負担させることができる。

 この規定に基づけば、現行スキームにおいても、当該都道府県内の市町村に財政負担を肩代わりさせる事は可能になりますから、佐賀県内で「長崎新幹線の建設により利益を受けるのは武雄市嬉野市だけだ」というコンセンサスが得られれば、佐賀県負担分の全額を両市に肩代わりさせる事ができます。そして、武雄市嬉野市による佐賀県負担分の全額負担こそが、長崎新幹線の建設を可能にする唯一の方法であると言い切れます。

 結局、長崎新幹線を全線フル規格で開通させる為には、武雄市嬉野市が身の丈に合わない財政負担を受け容れる必要があるという事です。そして、それに全く現実味が伴わない以上、長崎新幹線は永久にリレー方式のままとなる可能性が濃厚です。こうなると、今年3月に国土交通省が試算したB/Cが0.5しかなかったという事実を踏まえ、長崎新幹線の建設自体が白紙に戻されそうな気もしますね。