五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

「4時間の壁」を巡る発言に見る鳥塚亮氏の不見識

 整備新幹線の話からは外れますが、またも新幹線ネタです。元いすみ鉄道社長の鳥塚亮氏が、Yahoo!個人ニュースでまたも珍説を披露していました。

news.yahoo.co.jp

 鳥塚亮氏を巡る不見識については、はてなダイアリー時代のブロハラでも何回か取り上げましたが、ローカル線だけでなく新幹線についてもそのオッペケペーぶりを遺憾なく発揮しています。

社長の発言に見るいすみ鉄道の不要性 - 五月原清隆のブログハラスメント

いすみ鉄道は地域衰退のツール - 五月原清隆のブログハラスメント

 この当時は、「俺は鉄ヲタ向けに電車ごっこをやる。地域活性化の事はテメエらで勝手に考えろ」という沿線自治体への塩対応っぷりを開陳していましたが、今度は新幹線の沿線自治体に「新幹線は放置プレイでいいから航空路線の維持に全力を注げ」という塩対応のススメを開陳しています。これ自体が北陸新幹線の沿線自治体に対する冒涜以外の何物でもないのですが、この記事には他にもツッコミポイントだらけで、とてもTwitterで扱いきれる量ではありませんでした。以下、細かく見ていきましょう。

地方都市にお住いの皆様方の「東京」はほぼ都内23区に集中しているのに対し、東京人にとっての「東京」は東京都下、神奈川、千葉、埼玉、あるいは茨城など、かなり広範囲にわたっています。

 これは逆もまた真なりというもので、東京から地方都市に向かう需要は基本的に市街地や観光地が目的地となるのに対して、地方都市から東京に向かう需要の出発地は周縁部の住宅地です。そして、地方都市においては新幹線駅や空港まで自家用車で乗り付ける事がままあり、その際の駐車料金は新幹線駅よりも空港の方が安くなる傾向にあります。これは、既成市街地に建設される事が多い(在来線の中心駅に併設される事も多い)新幹線駅とは異なり、空港は基本的に郊外に建設される事が多いからです。

 一方で、地方から新幹線で東京駅や品川駅に着いた所で、目的地が駅の周辺にあるとは限りません。例えば、記事中で「東京と名乗っている千葉県の遊園地」と僭称を揶揄されている東京ディズニーリゾートは、東京駅から一応「電車一本」で行ける場所ではありますが、関東在住者ですら東京駅で迷う人が多いというのに、地方から来た人が東京駅で新幹線ホームから京葉線ホームへとすんなり行くのは極めて難しいでしょう。その点、羽田空港や成田空港からは東京ディズニーリゾートへの直行バスが出ていますから、リムジンバス乗り場にさえ辿り着けば、難しい乗り換えなしで東京ディズニーリゾートに辿り着けます。

 出発地や目的地とのアクセスにおいて、新幹線と航空機とのどちらが便利かなどというのは、ケースバイケースでしかありません。「地方からの上京には新幹線の方が便利」などと断言する事は出来ません。

今のインバウンド時代、羽田空港に到着した外国人観光客を自分たちの地域に呼び込もうと思ったら、羽田からの直行便が飛んでいるかどうかが重要なカギになりますから、都会からの人ばかりでなく外国人も呼び込もうと考えるのであれば「新幹線も飛行機も」両方あったほうが良いのです。

 鳥塚亮氏はブリティッシュエアウェイズ出身ですから、ルフトハンザがドイツ鉄道と提携していた事を知らない訳はありません。

ルフトハンザ エクスプレス Rail&Fly

https://www.lufthansa.com/jp/ja/lufthansa-express-rail-fly

 羽田空港や成田空港の発着枠が逼迫しているのは周知の事実なのですから、外国人観光客を地方に誘客するのであれば、ヨーロッパで多く見られる空港と高速鉄道との連携を推進する方法も検討すべきですし、空港アクセス鉄道の強化による新幹線へのシームレスな乗り継ぎという提言もなされるべきでしょう。記事タイトルにある通り、「新幹線は逃げられない」のですから、それを空港と結び付けない手はありません。

・国際線(チャーター便や不定期便を含む)を誘致するには、日本航空全日空が就航している空港でなければ飛行機の運航補助や旅客取り扱いなどができない。

 これは、空港側の努力次第でどうにでもなる話です。別にJALANAの国内線が就航していなくても、グランドハンドリング事業者に行政が適切な財政支援を実施する事によって、運航補助や旅客取り扱いの安定実施を確保する事は可能です。寧ろ、国際線の誘致という事であれば、地方自治体の努力だけではどうにもならないCIQ(税関、出入国管理及び検疫)をどうやって常設するかの方が重要になるはずなのですが、不思議とこの事は記事中では取り上げられていません。

まして、新幹線というのは地上のルートを走りますから、途中で何らかの形で線路を支障されてしまうと走れないという、当たり前といえば当たり前の現実があります。

例えば、「かかあ天下とからっ風」で有名な群馬県で、からっ風に乗って農業用のビニールシートが飛んできて架線に絡まっただけで新幹線は動けなくなります。

ということは、富山県から首都圏への移動手段の首根っこを、埼玉県、群馬県、長野県、新潟県に握られていることに等しいと考えられますね。

 地上走行区間が多い在来線ならいざ知らず、高架橋やトンネルを多用する新幹線において、気象条件により輸送障害が発生するリスクは極めて限定的です。寧ろ、地上走行区間における輸送障害のリスクを回避する為に、ミニ新幹線で開業した区間をフル規格で建設し直そうという動きすら出てきています。

 富山県に限って言うのであれば、北陸新幹線における輸送障害のリスクと富山空港における欠航のリスクとのどちらが高いかは、ブロハラ読者諸兄には説明するまでもないでしょう。

こういうことを言うとひんしゅくを買うかもしれませんが、すでに新幹線が開業している地域にとってみたら、新幹線はどうでも良いのであって、守らなければいけないのは航空路線なのです。

なぜならば、飛行機はすぐに逃げてしまいますが、新幹線は逃げられないからです。

 記事タイトルにもなっている一節ですが、これがどれだけ不見識であるかは、新幹線を赤字ローカル線に置き換えてみれば解る話です。故宮脇俊三氏の小説に「国鉄全線2万キロ」というものがありますが、赤字ローカル線の沿線住民が「鉄道はどうでも良い」と塩対応を決め込んだ結果が、今日に至る鉄道網の大幅な縮小です。

時刻表2万キロ (1978年)

時刻表2万キロ (1978年)

 

  鳥塚亮氏が社長を務めていたいすみ鉄道において、会社が行政に塩対応されたのか、行政が会社に塩対応されたのか、一概に言い切れるものではありませんが、少なくとも行政と鉄道事業者との緊密な協力なしに赤字ローカル線の存続はあり得ないのであって、行政が「どうでも良い」と塩対応を決めた赤字ローカル線に未来はありません。そして、それが現在進行形で見られるのが、現在のJR北海道なのです。

 新幹線の場合、どれだけ行政が塩対応を決め込んでも、駅そのものが廃止される事はないでしょう。しかし、そんな駅にどれだけ列車を停めるかは、完全に鉄道事業者の裁量です。今後、確実に塩対応への報いが見られるとすれば、沿線自治体が中間駅への財政支援を全面的に拒否したリニア中央新幹線でしょう。どんな塩対応になるかは、実際に品川=名古屋が開業してみなければ判りませんが、少なくとも沿線自治体が期待する程の経済効果が発生しない事は間違いありません。

ということは、JRは一度作ってしまった新幹線はやめたくてもやめられないというのも事実であります。

だとすれば、新幹線は乗ろうが乗るまいが地域にとっては関係ありませんね。

 仮にも鉄道事業者の社長を務めていた人がこんな発言をするとは、世も末です。当たり前ですが、「新幹線に乗ってくれる人」「新幹線で来てくれる人」が多ければ多いほど、地域経済も活性化します。となれば、新幹線の経済効果を最大限に高める為には、出来るだけ新幹線を利用してもらえるように沿線自治体が知恵を出すしかありません。そして、それこそが整備新幹線への財政負担を正当化する唯一の要素になるのです。

地域の人たちは自分たちが東京へ行くことを中心に考えるのではなく、東京の人たち、あるいはインバウンドの外国人の目から見て、どうやったらいらしていただけるかという視点で交通を見るようにしていただければ、今やらなければならないことは何かということがお解りいただけると思います。  

 この視点で考えるならば、最もやってはいけない事は「新幹線は乗ろうが乗るまいが地域にとっては関係ありません」と無関心を決め込む事です。とは言え、私の知る限り、北陸新幹線の沿線自治体でこんな無関心を決め込んでいた所はありませんけどね。

ただ、少なくともいえることは、富山空港と羽田の間には、新幹線が開業した今でも、きちんと飛行機が飛んでいるということで、その航空会社(ANA)の運航サポートにより、昨今では富山空港を発着する国際線も飛び始めているということは紛れもない事実です。

これはつまり、富山県のリーダーの皆様方が航空路線を維持することの大切さに気付いて努力しているということなのです。

 そんな富山県のリーダーの皆様方が、羽田=富山のダブルトラックを維持する事の大切さを無視してJAL富山空港から追い出した事は、今でも忘れていません。

JAL富山陥落か - 五月原清隆のブログハラスメント

 結局、富山県にとって大事なのは「ダブルトラックの維持」ではなく「ANAの羽田便」だったんです。もし、JAL就航当初から富山県がダブルトラックの維持に腐心していれば、今頃は羽田=富山や羽田=山口宇部と同程度には育っていたであろう事が予想されるだけに、JALグローバルクラブ会員の私としては実に残念でなりません。

ということで、皆さん、本屋さんへ行って「鉄道ジャーナル」をどうぞお求めください。

ジャーナリズム的視点で鉄道を取材していますから、勉強になりますよ。

 私は、「新幹線はどうでも良い」などと抜かす輩にジャーナリズムを語って欲しくありませんね。幸い、枝久保達也氏等のまともな論客も寄稿しているので、全体としてはジャーナリズムの体を為していますが。