五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

混雑緩和策としての女性専用車を考える

 さて、擦った揉んだの出勤劇でしたが、面白い収穫が一つありました。それは、女性専用車の取り扱いです。普段、小田急の女性専用車は1号車(小田原・藤沢方先頭車)に設定されているのですが、今日に限ってはその設定が取り止められていました。大幅な遅延で乗客が溢れかえっていたからなのでしょう。
 私は、So-net blog時代に「女性専用車は鉄道各社の混雑緩和策である」という記事を書きました。その中で、関東私鉄各社の女性専用車を、その性質から「女性客誘致型」と「男性客追放型」とに大きく二分しました。ここで、改めてそれぞれの定義を振り返りますと、以下の通りです。

○女性客誘致型

概要
編成内で比較的空いている車両に女性客を誘致し、全体の乗車率を平準化する。
有効な使用法
編成内で混雑する車両が複数ある一方、比較的乗車率の低い車両が少数存在する場合。
代表例
小田急小田原線東急田園都市線など。

○男性客追放型

概要
編成内で比較的混んでいる車両から男性客を追放し、全体の乗車率を平準化する。
有効な使用法
編成内で混雑する車両がごく少数に限られ、それ以外の車両は比較的空いている場合。
代表例
京王線西武新宿線など。

 小田急の場合、東京口での降車階段が

  • 下北沢
  • 代々木上原
    • 千代田線とホーム対面乗り換えが可能
  • 新宿
    • 4号車:南口
    • 6号車:南口
    • 8号車:西口地下
    • 9号車:西口地下
    • 10号車:西口地上(階段なし)

 と散らばっている為、どの駅でも降車階段が近くに存在しない小田原寄り先頭車以外は、全般に乗車率は等しくなる傾向にあります。それ故、女性専用車の設置は当然ながら「女性客誘致型」となり、小田原寄り先頭車である1号車が女性専用車となります。とあれば、事故などのイレギュラーで乗車率が高騰しそうな場合は、女性客だけでなく男性客も比較的空いている車両へと誘致する必要が出てくる為、女性専用車の取り扱いは自然と中止される事になるのです。
 一方、京王線のような「男性客追放型」においては、事故などのイレギュラー時こそ、女性専用車がその真価を発揮します。唯でさえ「人気車両」の乗車率が飛び抜けて高いところ、イレギュラー時ともなれば、出来るだけ早く目的地に辿り着くべく、ますます「人気車両」に乗客が殺到してしまいます。こんな時、その「人気車両」を女性専用車としてブロックしてしまえば、少なくとも男性通勤客は他の車両に強制誘導されますから、需給逼迫時の乗車率平準化に大きく貢献します。
 世の中には、女性専用車の存在に異を唱え、或いは不快感を顕わにする向きが少なくありませんが、私は女性専用車による混雑緩和策はアリだと思っています。比較的空いている車両に移動すれば確実に座れるというのならまだしも、どの車両に乗っても結局は座れないというのであれば、出来るだけ降車時に便利な車両に乗りたいと思うのは、通勤客の当然の心理でしょう。しかし、輸送力というリソースを最大限活用し、1本の列車でより多くの乗客を輸送する為には、各車両の乗車率を平準化し、便利な車両への集中を防ぐ必要があります。とはいえ、物理的な強制力を行使して、「人気車両」の乗客を「不人気車両」へと引き摺り込む事は不可能ですから、何等かのシステムを設けて、乗客を自発的に誘導する必要です。そこで、万人が比較的容易に判別可能である性別が、各車両の乗車率を平準化させる為のフィルターとして採用されたのです。この事が、性差別(或いは逆差別)の問題とリンクしてしまったのが、女性専用車の不幸とも言えるでしょう。
 要するに、現代における女性専用車は、純粋な「社会的弱者である女性の保護」とは大きくその性質を異にするのです。本来、ジェンダーをこのような用途で用いる事には大いに問題があるのですが、他に明確かつ有効な乗客のフィルターが存在しない以上、当面は「必要悪」として女性専用車を使うのは致し方ないのではないでしょうか。通勤ラッシュそのものが根本的に解決するその日まで、鉄道各社の葛藤は続く事でしょう。



 そんなこんなで、女性専用車の設定には後ろ向きながらも賛成である私ですが、一つだけ危惧している事があります。それは、現在は車両単位で設定されている女性専用車が、何れ列車単位での設定になるのではないかという事です。つまり、小田急で言うならば、「通勤時間帯の急行は女性専用列車です」というような設定になるという事です。
 女性専用車の存在意義が乗車率の平準化にあるのだとすれば、当然ながら列車単位での平準化だけではなく、全列車での平準化という視点も必要になります。小田急にしても京王にしても、各駅停車よりも優等列車の方が混雑しているという現状は誰が見ても明らかですから、女性専用車の設定による混雑緩和策がある程度効果を見せるようになれば、次は女性専用列車の設定へとシフトしていく可能性は十分にあります。こうなると、乗車率の平準化だけではなく、男性通勤客が優等列車を使えない事による時差通勤の普及などという副効果をも呼び起こす可能性すら出てきます。
 女性専用車の設定について、私が「どうせ混雑緩和策でしょ」と鷹揚に構えられる理由の一つは、自分の座る技術に対する絶対的な自信です。通常の通勤客にとっては、通勤電車は「混んでいるか空いているか」という識別でしょうが、私にとっては、通勤電車は「座れるか座れないか」という識別です。逆に言えば、座れない以上は、空いていようが混んでいようが私は殆ど気にしないという事でもあります。

 私にとって、座る技術とは「何時如何なる列車でも、自分の座りたい駅で自分の座りたい所に座れるか座れないか」の世界で競うものであり、そこに乗車率などというものは関係ありません。乗車率が200%だろうが300%だろうが、座れる人は座れるのであり、座れない人は座れないのです。それが、座る技術というものです。
 そういう座る技術に絶対の自信を持つという事は、どんな環境においても座るという覚悟を決める事であり、座れなかった時は己の精進不足を認める勇気を持つ事です。「運良く座れた」という事はあっても、「運悪く座れなかった」などという事は絶対にありません。座れないのには、必ず何等かの理由があるのです。その事に気付き、真摯に反省と研究とを繰り返す者のみが、真に座る技術を会得する事ができるのです。

 座る技術の会得者であると自認する私は、だからこそ女性専用車などというものに動じる事はありません。たかが小田原寄りの1両や2両潰されたところで、私にとっては誤差の範疇です。それどころか、自分の乗る車両以外が全て女性専用車になったとしても、私は今と同じく座り続ける自信があります。そこまで自分を信じ切れないチキンな連中が、「女性専用車が設定されると混雑して座りにくくなる」などという不要な心配をするのです。
 しかし、全車両まるまる女性専用車という事になってしまっては、流石の私もお手上げです。幾ら何でも、乗れない車両で座る事など不可能です。こうなれば、小田急を諦めて、東急なり京王なりに通勤経路を変更するしかないのですが、女性専用車の導入が各社横並びだった事を考えれば、女性専用列車の導入も各社横並びになるでしょう。まぁ、各駅停車の方が比較的座りやすいというのは確かですが、中央林間や橋本などの始発駅で座る事に慣れてしまっては、私の座る技術も鈍になってしまいますね。