五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

スターフライヤーの面子オーバー

 ブロハラ休眠中のニュースソースを整理していたら、こんなものが出てきました。

スターフライヤー、来年11月に5号機調達

http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_06062809.cfm

 SFJ71/92便の運休やJ-AIR名古屋線の減便が相次いで決まった現在となっては実に虚しいニュースなのですが、スターフライヤーの無計画な事業体質を知る上では貴重なニュースでもあります。予定では、4号機が羽田線の増便・5号機が北九州発着の新路線に充当される事となっていますが、どうやらこれらの機材計画も順調には進みそうにありません。
 取り敢えず、現時点ではこれだけの不安要素が存在します。

  1. 羽田線の増便は可能なのか?
  2. 名古屋線に需要は存在するのか?
  3. 北九州ベースの路線展開は妥当なのか?

 上記不安要素は、何れもスターフライヤーの就航前から懸念されていた事なのですが、SFJ71/92便が運休に追い込まれるという事態を承けて、いよいよスターフライヤーの事業計画に黄信号が灯った状態です。以下、これらの要素を順に検討していく事としましょう。


1.羽田線の増便は可能なのか?

 2007年3月の導入が予定されている4号機の就航によって、スターフライヤーは羽田=北九州線を15往復/日に増便する予定です。この前提条件として、「スターフライヤーが羽田発着枠を3枠追加で確保する事」というものがありますが、SFJ71/92便の運休という事態を承けて、その実現性は大きく後退したと見るべきでしょう。羽田発着枠というパイ全体の増枠がない中で、仮にも一度減便した路線を増便する為に発着枠を追加で交付するなど、とても他航空会社の理解を得られないからです。ましてや、スターフライヤーは就航当初から新規航空会社としては異例の9枠もの交付を受けるなど、既に羽田発着枠で十分な優遇を受けているのですから、スターフライヤー増便の為に羽田発着枠を取り上げられるJALANAにとっては堪ったものではありません。
 勿論、羽田発着枠の対象外である深夜・早朝を利用しての増便であれば、こうした事情とは関係なく実現可能です。しかし、早朝・深夜便は昼間便に比べて採算性に劣るという事は、スターフライヤー自身が身を以て理解しているはずです。何とか需要を掻き集めている北九州アウトバウンドのSFJ93/70便ですら、その搭乗率は50%の前後を行ったり来たりで、とても増便の余地などありません。これ以上早朝・深夜便を増便すれば、SFJ93/70便の搭乗率が現在のSFJ71/92便並みに低迷してしまう危険性すらあるのです。
 こうなると、スターフライヤー羽田線増便は絵に描いた餅という事になりそうですが、一つだけ実現の目はあります。それは、JALの東京羽田=北九州線を廃止に追い込み、その分の発着枠をJALから奪取する事です。2009年度の羽田再拡張完成まで、JALANAは引き続き発着枠の削減を迫られます。そんな中、決して「優等生」ではなくなった北九州線を清算し、それと同時に発着枠返上も実現してしまうというこの方法は、JALにとっても決して都合の悪い話ではありません。しかし、大手航空会社のルーラル線切り捨てとダブルトラック路線のシングルトラック化とを同時に実行してしまうこの方法は、国土交通省公正取引委員会の理解を得るのが非常に困難ですから、JALとしてもスターフライヤーとしてもなかなか実行には踏み切れない事でしょう。


2.名古屋線に需要は存在するのか?

 2007年3月の4号機就航に続いて、2007年11月には5号機が導入され、翌12月には運航を開始する予定です。スターフライヤーによれば、この5号機は羽田線以外の新規就航路線に充当されるとの事で、名古屋や札幌、はたまた上海などといった就航地が検討されています。その中で、現在最も就航が有力視されているのが、トヨタ自動車九州の出資によって関係が密接になった名古屋・中部国際空港です。しかし、J-AIRが名古屋小牧線を減便するという事態を見るに付け、果たしてスターフライヤーの名古屋中部線が実現可能なものなのか、改めて考えなければならなくなりました。
 J-AIR名古屋線は、新北九州空港の開港と同じ2006年3月16日から運航を開始しましたが、日を追うに連れて搭乗率は激減し、6月には搭乗率が43.9%という有様です。CRJ200の北九州空港ナイトステイがない名古屋アウトバウンドの時刻設定とはいえ、3往復/日の運航は決して少ないものではありません。割引運賃の設定にしても、JALANAの名古屋=福岡線と遜色ないくらいには充実していたのですが、やはり東海道・山陽新幹線の圧倒的な本数・座席数には敵わなかったようです。
 この名古屋線毎日新聞の紙面記事によれば「主としてトヨタ関係者が利用していた」との事なので、スターフライヤー名古屋線を就航させれば、今までJ-AIRを利用していたトヨタ関係者がスターフライヤーに移ってくると考える事も出来ます。しかし、1日当たりたったの300席という名古屋=北九州線の提供座席数さえ埋める事がままならない程度の需要では、スターフライヤーA320なんか投入した日には確実に空気輸送となります。乗客定員50名の機材で搭乗率43.9%という事は、乗客定員144名の機材で運航すると搭乗率は15.2%にまで落ち込むのです。
 要するに、スターフライヤー名古屋線を採算ベースに乗せる為には、J-AIR北九州空港から追放した上で、なおかつJ-AIRが輸送していた旅客需要の3倍にも相当する旅客需要を創出しなければならないという事なのです。圧倒的にスターフライヤー優位であると言われた羽田線でさえ新幹線や福岡空港から旅客需要を満足に奪取できていない現状を考えれば、より新幹線が強まる名古屋線スターフライヤーが競合交通機関から旅客需要を奪取できる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。JALANAの名古屋=福岡線でさえ、新幹線の前に機材縮小を余儀なくされているのですから、なおスターフライヤー名古屋線の成功の目は小さいと見るべきです。


3.北九州ベースの路線展開は妥当なのか?

 羽田線の増便はままならない、名古屋線では採算ベースに乗る見込みがないとなると、いよいよ4号機・5号機の使い途は限られてしまいます。残るは、札幌や沖縄といった国内長距離線、さもなくば上海や広州などの国際線といった感じなのでしょうが、どの方向へ進むにしてもスターフライヤーの前途には茨の道が待ち構える事になってしまいます。
 先ず、最も発展性が高いと言われている上海線ですが、私には無謀行為以外の何物にも見えません。というのも、現在就航している中国南方航空の上海線が余り芳しい実績を残していないからです。上海ベースの運航ダイヤが北九州アウトバウンドの旅客需要とミスマッチを起こしているというのが主要な原因ですが、それ以外にも福岡=上海線の充実や抑もの需要不足という問題が存在します。時刻設定はスターフライヤー次第でどうにでもなるでしょうが、適切な時刻設定をしても、それで漸く福岡=上海線と同じ土俵に立てるというだけの話であり、便数や運賃での利便性で福岡空港に就航する日本航空中国国際航空中国東方航空の3社に打ち勝てなければ、やはりスターフライヤーに勝ち目はないのです。更に言うなら、国際線の運航に際しては、国際情勢の変動や相手国のカントリーリスクといった外部リスク要因への対応能力も問われる事になるのです。国際線の運航は、国内線以上に政治力や経験・実績がモノを言う世界であり、営業開始から1年や2年そこいらの航空会社がおいそれと手を出せるものではありません。その相手国が支那だというのであれば、なおさらです。
 次に、国内線でかなり有力視されている沖縄線ですが、これまた私は余り推奨できません。JTAが搭乗率低迷でJ-AIRの後を追うように北九州空港から撤退するというのならいざ知らず、JTAが現状のまま就航しているところにダブルトラック化を図ろうとしたところで、北九州アウトバウンドの観光客に最適化されたJTAのナイトステイダイヤに勝てる見込みはほぼ皆無だからです。このナイトステイダイヤは、JTA那覇空港をベースとしているからこそ実現可能なダイヤであり、スターフライヤーが似たようなダイヤで運航した所で、今度は昼間にその機材を何処で遊ばせておくかが問題になってしまいます。かといって、那覇空港で直ぐに折り返すダイヤを設定したところで、今度は中途半端な時間帯の運航便をどのように採算ベースに乗せるのかという別の問題が生じます。真っ昼間に沖縄から北九州に向かったり、逆に夕暮れ時に北九州から沖縄に向かったりする需要は、福岡=沖縄線のそれよりも確実に少ないはずです。何れにしても、現状JTAが56.8%の搭乗率しか叩き出せていない所にスターフライヤーが参入したところで、過当競争で共倒れに追い込まれるだけです。
 そして、北九州からの就航が待望されている札幌線ですが、やはり私は余り推奨しません。既存の札幌線が存在せず、福岡空港まで行くと遠回りになってしまう札幌線は、一見スターフライヤーにとって発展性の高い路線に思えます。しかし、札幌線の運航に当たっては、2つの大きなリスク因子に遭遇する事を覚悟しなければなりません。1つは、年間における需要の月較差が極端に大きい事、もう1つは、冬季における新千歳空港の厳しい気象条件です。スターフライヤーは、あくまでも年間を通じて安定した需要のある羽田=北九州線に最適化された航空会社であり、慣れない波動輸送に手を染めた所で、閑散期にバンザイするのは目に見えています。更に、冬季の豪雪で新千歳空港に機材を釘付けされてしまうのは、機材に余裕のないスターフライヤーにとっては致命傷にもなりかねません。雪害の予測が立てにくい分、そのリスク因子は沖縄における台風・豪雨のリスクよりも大きいというべきであり、おいそれとスターフライヤーが手を出すべき路線ではないのです。
 こうしてみると、最早北九州をベースとした路線展開そのものに限界があると言うべきでしょう。国際線に乗り出すにはスターフライヤーは未熟であり、沖縄へ向かうにはJTAという大きな壁が聳え立ち、名古屋に至ってはJ-AIRが一足早く減便する事で需要確保の難しさを物語っています。かといって、地方都市と北九州とを結ぶ路線を設定したところで、今度は名古屋線以上に小さなパイをどうやって確保するかという死活問題に至ります。下手に近距離だと、地上交通機関との競争にも巻き込まれる事になります。
 となれば、これ以上の路線拡大が難しい北九州に固執するのではなく、どの路線を運航するにも比較的安定した需要が見込める羽田をベースにした方が、発展途上のスターフライヤーにとっては望ましいという事になります。実際、これが首都圏において認知度を向上させる最短経路であり、相変わらず実績が安定しない羽田=北九州線の搭乗率を安定的に向上させる最も効果的な方法でもあります。あとは、繰り返しになりますが、スターフライヤー自身が北九州を捨てる覚悟を持っているか否かの問題になるのです。



 上記で見てきた事を総合して得られる結論は、スターフライヤーが従来通りの北九州をベースとした事業計画に固執する限り、4号機・5号機とも無駄な投資に終わるというものです。これは、スターフライヤーのビジネスモデルそのものの敗北であるのと同時に、新北九州空港における需要予測の敗北をも意味するものです。まぁ、一地方空港でしかない新北九州空港において、東京線以外の旅客需要を半分以上にしようという話自体が無謀だったんですけどね。福岡空港ですら、その利用者の半分は東京線なのですから。
 取り敢えず、スターフライヤーは一刻も早く羽田空港をベースとした路線展開の検討に踏み切るべきでしょう。その際には、業務提携先のANAから一部路線を譲受する事もその検討に含めるべきです。AIR DOやSNAの二番煎じといった感じで、スターフライヤーにとっては余り気分のいいものではない事でしょうが、まだ実績を積み重ねていないスターフライヤーにおいては、ANAの傘の下に入る事こそが最も確実な成長の方法なのです。