五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

猪瀬直樹にツッコミドレミファ・ドン

 という事で、今日もスタフラを腐す前に、先ずはこの人から(つ´∀`)つ

○僕はなぜ東京都の副知事になったのか

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/inose/070731_2nd/

 要するに、羽田空港を24時間運用しる!」という記事です、1ヶ月も前の記事を扱うのは、最近になってから猪瀬直樹の連載を知ったからです。そして、その連載で最初に見掛けたのが、よりによってこの記事です。

都営地下鉄東京メトロの一体化・24時間運行を考える

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/inose/070821_4th/

 まーたはじまった(AAry
 保線間合いを一切確保しなくてよいメンテナンスフリー軌条が出来ない限り、何処かでまとまった時間の保線間合いは必要です。大晦日終夜運転をしているのは、それが「大晦日だけだから」なのであり、365日24時間運行を継続するなんて事になれば、早かれ遅かれ路盤整備不良で大事故を引き起こす事になります。相変わらず、猪瀬直樹は軌条を見ないで机上ばかりで議論しているなぁと、ウマい事を言った気分になりながら、そろそろ本題のツッコミに入ります(つ´∀`)つ


1.羽田空港稼働率は何故低いのか?

 これについて、猪瀬直樹はこんな事を言っています。

 発着便数を増やすのなら、滑走路をつくればいいという意見が聞かれる。これは土木の発想だ。ロンドンのヒースロー空港は、羽田空港と同じく、滑走路が2本しかない(横風用を除いて)。だが、1年間の離着陸は、羽田の約30万回に対して約50万回弱。離着陸にかかる時間もヒースロー空港のほうが羽田より約1.7倍速い。要は、ソフトの問題である。現状のままでも、考え方一つで発着便数を増やすことは可能なのだ。

 第2ターミナルビルがオープンし、JALANAとで別サイドに分かれた今日、確かに羽田空港でも離着陸回数を増やす事は可能です。しかし、現状のインフラで発着枠を増やすには、重要な前提条件が1つあります。それは、A滑走路の北側利用を大幅に解禁する事です。つまり、RWY 34Lからの離陸やRWY 16Rへの着陸を非限定的に実施するという事です。これは即ち、昼間時間帯における東京都上空飛行の解禁という事でもあり、大田区や品川区といった空港周辺自治体から騒音公害のクレームが付く事請け合いです。

 それでは、誰が住民の声をとりまとめ、住民の利益を訴えるのか? それはやはり東京都だろう。つねに消費者の側、住民の側、利用者の側に立って、国に対して利便性や利益を還元させていくことが、副知事としての使命だと考えている。

 住民の声を取り纏めたら、「国際線は就航して欲しいけど、騒音公害が増えるのは厭」というものになります。実際、伊丹空港関西空港は住民の声に従ってグダグダになっているのですから、その愚を羽田空港で繰り返す必要はありません。
 駅から遠い所ほど騒音公害が大きくなる新幹線とは異なり、航空機騒音は空港に近ければ近いほど大きくなります。騒音公害の受益者負担という点に限って言うなら、航空機は非常に民主的な交通機関であり、空港周辺住民が公害コストを甘受すればするほど、その利便性も大きく高まる余地を残しています。制限表面の関係から、RWY 16L/RにILSを設置する事はままならないでしょうが、RWY 34Lからの離陸を解禁するのは、偏に空港周辺住民の気持ち次第です。騒音公害を東京都自ら負担しようという覚悟の強さが、羽田空港の利便性を決定すると言っても、過言ではありません。
 序でに言うなら、現在の羽田発着枠の上限値を決めているのは、A滑走路でもC滑走路でもなく、横風用・悪天候時用のB滑走路です。このB滑走路で3時間にどれだけの着陸を捌けるのかが、即ち羽田発着枠の上限値になっています。RWY 16L/RにILSを設置できない以上、羽田空港の処理能力はRWY 22の処理能力に従うしかなく、それが限界という事になれば、D滑走路による物理的解決に頼るしかないのです。別に試算はしていませんが、ILS RWY 16L/Rの制限表面に引っ掛かる建造物*1の全面撤去に掛かる費用を考えれば、D滑走路の建設費・維持費も決して高くはないでしょう。


2.24時間運用は本当に利便性を向上させるのか?

 取り敢えず、猪瀬直樹の大いなる事実誤認から(つ´∀`)つ

 羽田空港の利用時間は6時〜23時。なぜ24時間でやらないのか不思議で仕方がない。ヨーロッパへの飛行機は夜中に出発したり着陸したりしてもいいはずだ。昔は、羽田空港に離着陸する飛行機が大田区の上空を通っていたから、騒音などの問題があって仕方なかったのかもしれない。だが、現在の羽田は海上空港。本来ならば24時間使えるはずなのだ。

 もう、ここだけでツッコミ三昧ですね(ノ∀`)

  1. 羽田空港海上空港ではなく半海上空港である。
  2. 羽田空港は現在でも24時間運用である。
  3. ヨーロッパ便が夜中に羽田空港を出発しても現地着が不便な時刻になる。

 海上空港というのは、関西国際空港新北九州空港などのように、純粋に陸地から独立した島の中にある空港の事であり、羽田空港那覇空港などのように沖合に展開した空港は「半海上空港」と言います。当然、海上空港に比べれば騒音公害の制約は大きく、無条件に24時間使えるというものではありません。悪天候時の事を考えれば、本格的な24時間運用はD滑走路にILSで着陸できるようになる2010年まで待つべきでしょう。
 尤も、現時点でも限定的ながら24時間運用は実施され、実際に深夜・早朝チャーター便がグアムやヨーロッパに飛ぶ事がままあります。そして、スターフライヤーは果敢にもSFJ71/92便で早朝・深夜定期便という新ジャンルに挑みましたが、その惨憺極まりない結果については、このブログを読んでいる人であればご存知の事でしょう。自家用車利用がマジョリティになっている北九州空港側のSFJ93/70便ですら、搭乗率は50%未満と低迷し、ANAに座席買い取りを拒否されている為体なのですから、公共交通機関の有無に関係なく、深夜・早朝便の需要そのものがニッチに過ぎないという事です。つまり、24時間運用による受益者は空港利用者の中でも極めて限られた層に過ぎないのであって、その24時間運用に多大なコストを割くのは、とても「利用者の側に立った」意見とは言えないのです。
 スターフライヤーは国内線で早朝・深夜便を運航して失敗しましたが、これが国際線ならどうなのかというと、結果は大して変わりません。ヨーロッパ行きであれば、羽田空港を深夜に出発すると、現地には早朝(下手すると夜明け前)に到着する事になります。「現地で1日まるまる活用できる」と言えば聞こえはいいのですが、身体に掛かる負担は非常に大きく、作業効率という点では甚だ疑問です。逆方向ともなれば、現地を早朝に出て羽田空港に深夜に着くか、現地を午前中に出て羽田空港に早朝に着くかの二択です。何だかんだで、日本からヨーロッパへの出発便が10時から12時までの間に集中するのには合理的な理由があるのであって、物理的に発着可能だからという理由で深夜に国際線を飛ばすのは、寧ろ利用者利益に反していると言うべきでしょう。


3.羽田空港を国際化しても成田空港の利用は減少しないか?

 何を以て「利用」とするかにもよります。搭乗者数やロードファクターで見るなら、羽田再国際化による影響は限定的なものに留まりますが、ユニットレベニューや利益率で見るなら、羽田再国際化は確実に成田空港の国際線に悪影響を及ぼします。というのも、同一路線で市街空港と郊外空港との両方からの就航があるのなら、殆どの利用者は便利な市街空港の発着便を利用したがります。設備制約などで市街空港の発着便を十分に確保できないケースであれば、両者の実勢運賃に差異が発生し、高運賃を負担できるビジネス需要などの高イールドな需要が市街空港発着便に、団体ツアーや格安航空券など低イールドな需要が郊外空港発着便に、それぞれ分布する事になります。その典型例が、大阪発着の国内線における伊丹便と関空便との運賃差異であり、東京においてもソウル線で羽田便と成田便とに大きな運賃差異が生じています。今年10月以降、羽田=虹橋線が本格的に就航すれば、やはり成田=浦東線との運賃差異が目立ってくる事でしょう。

 だが、ここはプラス思考で考えればいい。「成田空港の利用が減る」ではなく、「全体の利用を増やす」と考えればいいのだ。成田空港は現状を維持したまま、羽田空港の需要を増やせばよい。横田も軍民共用化で需要が増えていい。それくらいの航空需要はあるはずだ。

 確かに、「全体の利用」は増える事でしょう。しかし、上述の通り、成田空港の現状は決して維持されません。最低でも3,500mからの滑走路長が必要な欧米線*2を除き、高イールドな航空需要は殆どが羽田空港に集中してしまいます。羽田再国際化によって新規開拓される航空需要が総てこうした高イールド需要であれば、成田空港もまだ現状を維持できるのですが、供給の拡大によって開拓されるのが不急不要の低イールド需要だというのは、航空機に限らず、どんな産業にも当て嵌まる話です。今回の羽田再国際化に当て嵌めて言うなら、羽田発着便に高イールド需要がシフトし、それによって空いた成田発着便の座席を今までよりも低イールドな新規需要が埋め尽くすといった絵図が展開される事になります。
 一方で、成田空港の発着に係る公租公課については、羽田再国際化によってもそれほど大きくは引き下げられません。猪瀬直樹の望む通りに成田空港が現状を維持すればするほど、公租公課の引き下げ幅は小さくなり、完全な現状維持であれば「世界最高額」と言われる発着料や夜間駐機料も現状維持という事になってしまいます。つまり、公租公課はそのままに、イールドだけが悪化するという最悪のシナリオが展開されてしまうのです。こうなれば、国内線との兼ね合いで決して十分には確保されないであろう羽田発着枠が熾烈な価格競争になる一方で、成田空港では低イールドな需要を巡っての不毛な消耗戦が繰り広げられる事になります。そして、体力の尽きた航空会社から次々と成田撤退が始まり、行く行くは成田空港そのものの衰退にも繋がるのです。これは、「首都圏空港インフラの全体最適化」という趣旨に悖るものであり、凡そ猪瀬直樹の理想から懸け離れてしまいます。寧ろ、こうした偏在が発生しないよう需給をコントロールするのが航空行政の使命であり、苟も副知事として都政に携わろうというのなら、羽田空港も成田空港も持続可能な成長が出来る政策を提示すべきでしょう。そこまで考える事なく「それくらいの航空需要はあるはずだ」などと楽観論をぶち上げるのは、「北部九州圏には、新福岡空港が必要になるほどの航空需要が発生するはずだ」などとほざくのと同類であり、無責任そのものです。
 国際空港がその路線を維持拡大していく為には、ビジネス客などの高イールド需要を確実に取り込んでおく事が必須条件です。その事は、関西経済連合会関経連)が7月27日に発表した「関西国際空港の利用促進強化についての宣言」を読んでも分かる事です。

関西国際空港の利用促進強化についての宣言

http://www.kankeiren.or.jp/work/pdf/12A0A1185507895.pdf

 この宣言では、羽田=関空=海外の利用促進と共に、長距離国際線におけるビジネスクラスの積極的利用が謳われています。米国同時多発テロに端を発する航空不況で数多くの欧米線を失ってきた関空だからこそ、高イールド需要の重要性を身に染みて理解しているのです。



 以上で見てきた通り、猪瀬直樹の唱える羽田空港の24時間運用や国際化は机上の空論そのものであり、実用に値するものではありません。まぁ、新直轄方式でグダグダになった道路公団改革の時と同様、今回も猪瀬直樹が役人に丸め込まれて一件落着という事になってくれれば、ミラベルの悲劇だけは繰り返されなくて済む事でしょう。気が付けば、福岡空港と「近隣空港」との連携なんて話も却下されていますから、猪瀬直樹の影響力なんて所詮こんなものです。

福岡空港過密対策、「新設」「滑走路増設」の2案に絞る

http://symy.jp/iGh9Google Cache+ウェブ精米)

 取り敢えず、真に利用者利益を考えるのなら、実施すべきは以下の案件でしょう。

  1. ナリバンの完全殲滅による成田国際空港の全面完成及び24時間運用
  2. 成田新高速鉄道の早期完成及び都営浅草線の東京駅乗り入れ
  3. 都区内上空を経由するSID/STARの設定による羽田空港北側空域の全面活用
  4. 羽田空港・成田空港の駐車場を管理する天下り団体の解体による空港駐車場料金の適正化

 こういう案件を地道にクリアしてこそ、初めて羽田再国際化という理論も説得力を帯びてくるというものです。

*1:私の記憶が確かならば、東京タワーですら引っ掛かってしまうはずです。

*2:これとて、航空貨物の取り扱いを大幅に制限し、機内座席配置もファーストクラスやビジネスクラスを中心とした少数高単価コンフィグにすれば、現在の3,000m滑走路で十分に離着陸出来てしまいます。欧米線でそんな便が就航すれば、ますます羽田線成田線とのイールド格差が深刻になっていく事でしょう。