五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

公務員の通勤定期券という「役得」

 久し振りに、憑かれた大学隠棲さんの所からネタを拾ってみます。

○ここは酷い通勤定期ですね 障害報告@webry/ウェブリブログ

http://lm700j.at.webry.info/200807/article_5.html

 ここでの話の元ネタになっているのが、このエントリーです。

○ねえねえ、ちょっと教えてよ。 - 霞が関官僚日記

http://d.hatena.ne.jp/kanryo/20080704/p1

 一応、憑かれた大学隠棲さんの所にはちょこっとコメントしてきたのですが、2、3日ほど考えてみた結果、通勤定期券を「役得」と見なして対処していくには、以下の3つが問題になるような気がします。

  1. 通勤経路での寄り道も役得と見なされるのか?
  2. 誰がどう「通勤定期券の私的利用」を発見・更正するのか?
  3. 公務員以外でも「役得」となるのか?

 続きは、暇な人だけ読んで下さい(つ´∀`)つ


1.通勤経路での寄り道も役得と見なされるのか?

 言うまでもなく、通勤定期券とは「自宅と職場との往復に供する為の定期乗車券」です。この本旨に照らせば、休日の通勤定期券利用がその本旨に悖るのは勿論、ちょっとした寄り道も「私的利用」と見なされる事になります。しかし、これを極限まで厳格に運用すると、様々な問題が生じてしまいます。
 例えば、通勤経路上で改札外乗り換えがある場合、それぞれの改札の間は一般市街地を歩く事になります。新今宮駅鶴橋駅のように乗り換え通路がキチッと整備されている所ならいざ知らず、町田駅天神南駅のように、乗り換え経路上での消費需要を見込んでわざと相互駅間を離している乗り換え駅だと、「通勤経路上で」ショップや喫茶店に立ち寄る事が出来てしまいます。厳格解釈するならば、スポーツ新聞を購入しようとキヨスクに立ち寄っただけでも立派な「通勤定期券の私的利用」に該当し、ましてや「マルイでハンドバッグをウィンドウショッピング」なんてのは論外という事になります。しかし、実際にはこうした「寄り道」を一切しない人などほぼ皆無であり、書店や家電量販店に立ち寄った事のある人の方が圧倒的多数でしょう。
 実は、こうした論点は労働災害が10年以上前に通っている道です。

○通勤災害の労災認定の基準

http://www.fujisawa-office.com/rousai5.html

 これは、「通勤途中に事故に遭遇した場合、労働災害として申請できるか?」という論点の物であり、今回の「通勤定期券の私的利用」とは若干ズレる話です。しかし、「何を以て通勤とするのか?」「何処までの逸脱や中断なら通勤途上と認められるか?」という論点は、正に今回の話と相通じる所です。そして、その認定基準を巡って、認定と不認定との狭間で揺れる案件が数多く存在するのです。
 恐らく、通勤定期券についても労働災害とほぼ同様の認定基準に落ち着く事でしょう。しかし、労働災害に比べれば圧倒的に件数の多い通勤定期券ですから、終いにはこんなバカバカしい通達が出る事になってしまいます。

  • 雀荘はダメだけど、パチンコ屋でお座り単発くらいまでならOK。
  • アトレは改札外だからダメだけど、エキュートなら改札内だからOK。
  • 新宿南口の成城石井は、駅構内から利用している場合のみOK。

 厳格運用というのは、こういうバカバカしい判例や通達の積み重ねなのです。


2.誰がどう「通勤定期券の私的利用」を発見・更正するのか?

 厳格な「通勤定期券の私的利用」に関するガイドラインを設けたところで、そのままでは絵に描いた餅です。ガイドラインは、その内容が適切に運用されて、初めてガイドラインとしての意味を持ちます。そして、適切に運用する為には、それ相応の人員や予算というものが必要になります。
 ここで、上述の通り厳格なガイドラインが制定されたとして、果たして「私的利用」の発見はどのように行われるのでしょうか。人口8万人かそこいらの小規模自治体ですら、職員数は軽く500人を超えます。その500人の出退勤を逐一監視するなんて事になれば、その人員コストだけで軽く1つや2つの新規事業を展開できてしまいます。日頃「公務員の無駄遣い」云々と喧伝する人も、「じゃあ公務員の出退勤を全力で監視します」なんて聞いた日には、確実に「そんな予算があるなら保険税を値下げしろ」などと言い出す事請け合いです。
 最近では、JRだけでなく私鉄やバスでもIC定期券を利用できるようになりましたから、全職員にIC定期券の利用を義務付けた上で、出勤簿と改札通過時刻とを突合する事は、システム構築という観点からは不可能ではありません。しかし、改札外乗り継ぎ中の寄り道に関しては発見のしようがありませんし、縦しんば逸脱や中断を発見できたとして、それが厚生労働省令上の例外に該当するか否かの判断は、やはり人力に頼らざるを得ません。そして、「私的利用」を発見・更正する為のコストは、当然ながら税金によって賄われる事になるのです。


3.公務員以外でも「役得」となるのか?

 公務員による通勤定期券の「私的利用」は、その原資が税金で賄われている事から、「公金横領」という枠組みの中で議論する事が比較的容易です。しかし、通勤費の支給を受けている限り、「通勤定期券の原資は自分の金ではない」という事実は、公務員であろうが会社員であろうが全く変わらないという事は、決して忘れてはなりません。単に、「市民の税金で……」という部分が「会社の経費で……」と書き換わるだけの事ですし、更に言うなら「お客様から頂いたお金で……」と書き換わるだけの事なのです。
 仮に、通勤定期券での途中下車や休日利用が「私的利用」だという事になれば、その影響は間違いなく民間企業にも及びます。今までは「非課税通勤費」として所得税や住民税の課税とならなかった通勤費が、「企業による従業員への便宜供与」として一時所得の一部と見なされる事になるのです。その結果、民間企業においても、「通勤費に対する課税を甘受する」か「通勤定期券が通勤以外の何事にも利用されていない事を証明する」かの二択を迫られる事になるのです。
 そして、昨今企業に求められているコンプライアンスの精神に則れば、「従業員による通勤定期券の私的利用はコンプライアンス違反に問われる」という事になり、J-SOX法対策の一環として「従業員による通勤定期券の私的利用の禁止」なんて文言が企業のコンプライアンス基本方針に出てくるようになってしまいます。J-SOX法の適用を受けるのは株式公開企業のみですが、大抵の上場企業はその取引先にも自社と同等のコンプライアンスを求めますから、結局は殆どの企業に影響が波及してしまいます。まぁ、コンプライアンス精神が国や地方公共団体だけでなく民間企業にも求められている事を考えれば、当然の結論でしょう。



 こうして振り返ってみると、如何に「通勤定期券の私的利用」云々がバカバカしい議論であるかがよく分かります。そして、一度通勤定期券が槍玉に挙がったら、その次に標的にされるのは、出張時のマイレージやポイントの取得です。最近では、航空機だけでなく新幹線や特急列車でも「クレジットカード会員限定割引」なんてものが登場していますが、当然ながらその割引はマイレージやポイントの付与とセットで行われます。コンプライアンス精神のみを追求する剰り、より低コストで出張できる方法を自ら放棄するのでは、本末転倒と言われても仕方がありません。
 使用者にしても労働者にしても、もう少しコンプライアンスに対して柔軟になるべきでしょう。「出張だけでマイルがウハウハ」なんてのは、全労働者から見れば極めて少数の「マイルエリート」であり、ハッキリ言って無視しても全く差し支えのないレベルです。日常の通勤や出張での長距離移動は、金銭的だけでなく体力的なコストも掛かります。それに付随する少々の役得くらい、大目に見てやっても罰は当たらないでしょう。その役得で、日常業務においてより多くの成果を出してくれるのであれば、実に安いものです。