五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

JALの企業年金は減額できない

 さて、私が仕事とAn×Anとにかまけている間に、世の中は色々と動きがありました。まぁ、民主党が大勝したのはマスゴミネガティブキャンペーンが森田神の誤信託をも呑み込んだというだけの事ですから、敢えて多くを書く事もないでしょう。現在行われている事業仕分けも、ネガティブキャンペーンに始まる一連の「空気」ですから、ある程度織り込み済みの話です。
 一方で、JALの経営再建問題については、いよいよ自力再建が困難という情勢が見えてきています。既にタスクフォースが色々と引っ掻き回してくれていますが、本来なら2年か3年前にはこうなっていなければいなかったはずのJAL問題が、政権交代によって漸く表に出てきたという感じです。JALの経営難は同時多発テロ以降何度も出てきた話であり、特に3年前のインシデント多発時代は本格的に危機感を覚えたものですが、普段飛行機など乗らない一般大衆の皆さんはマスゴミが騒ぎ立てなければ一切興味を持たないという事が、今回の一連の報道で感じた正直な所です。
 そんなJAL再建ですが、何故かマスゴミが一番問題にしているのは、多種多様に渡りすぎている運航機材でも拗れに拗れすぎている労使問題でもなく、既にJALを退職しているOB/OGに対する企業年金だったりします。恐らく、B747-446のコンフィグでは数字を稼げないという事なんでしょうが、剰りにも枝葉末節の議論に終始しているような気がしてなりません。これからどれだけの赤字を生み出すか分からない機材や路線の問題を語る事なく、既に支出額のほぼ確定している企業年金だけを取り上げるのは、マスゴミの能力不足といった所でしょうか。



 で、企業年金を減額するかしないかでの鬩ぎ合いが何故か続いている訳ですが、私は一般大衆の輿論である「特別立法をしてでもOBの企業年金を減額すべきである」という論調には同調できません。現在のJALが経営危機に陥っているのは、偏にJAL民営化以降の経営陣や航空行政の無能ぶりが原因であり、現場で汗を流して働いていた職員の年金によってその補填を行うというのは筋が通らないでしょう。
 企業年金をどう給付するかなんていうのは、企業と従業員との雇用契約の範疇であり、現役社員に対する給与や福利厚生と同列に語られるべきものです。よく、「JALキャビンアテンダントは給与が高すぎる」なんて向きを見掛けますが、本当に高給取りと言えるのは半官半民時代に就職した一部のプロパーくらいのもので、それとて雇用契約の内容がそういう内容になっているだけの話であり、従業員を責めるのは筋違いというものです。ましてや、既に退職しているOB/OGの企業年金なんてのは、既に雇用契約が終了している話であり、経営危機に際してここに手を付けようなんてのは、愚策中の愚策でしょう。
 その中でも一番の愚策は、一般大衆の輿論に多い「特別立法で年金の大部分を全て取り上げてしまえ」というものです。JAL企業年金は最大で月額25万円になるとの事ですが、これがマスゴミの手に掛かるとこういう見出しになります。

日本航空:年金支給額、最大48万円 全日空は31万円−−政府内部資料

http://mainichi.jp/select/biz/news/20091106ddm001020024000c.html?inb=yt

 これでは、輿論が「年金を半額にしてしまえ」と動いてしまうのも当然です。恐らく、JAL年金問題脊髄反射している向きの多くは、現在のOB/OGの年金が3階建てになっている事を理解していないでしょう。この3階建てとは、

  1. 国民年金(全国民が加入・国営)
  2. 厚生年金(民間企業の従業員全員が加入・国営)
  3. 企業年金(企業が独自に運営)

 という構造なのですが、48万円というのはこの3階分の合計金額で、なおかつその半額近くは国営の年金、つまりは他社で同様に勤務していた人でも同額を受給できる金額なのです。厚生年金にしても、受給額は現役時代の掛け金によって決まりますから、厚生年金の受給額が多いという事は、即ち現役時代の厚生年金保険料も多く取られているという事なのです。
 この年金の大部分を「没収」という事になれば、企業年金はほぼ全額カットになるでしょうし、場合によっては公的年金であるはずの老齢厚生年金にまで手を付けられかねません。通常ならば絶対にあり得ない話ですが、特別立法なんて事になってしまえば何でもやりたい放題ですし、輿論は「JALのOB/OGに対してなら何をしてもよい」という空気を醸成していますから、何処かで歯止めをしない限り、老齢厚生年金の減額裁定すら行われかねません。



 この問題は、企業や団体の従業員であれば、誰しも他人事では済まされません。自分が退職した後に、その企業や団体が経営難に陥れば、ある日突然「資金繰りがショートしそうなので年金を減額します」なんて通告されるかも知れないのです。JALの再建に際して年金減額を特別立法でごり押しするというのは、その禁断の手法にお墨付きを与えてしまう事と同値なのです。
 そして、こんな事をすれば、真っ先に影響を受けるのが、3階建ての1階部分である国民年金です。企業や団体の従業員ならば、厚生年金や共済年金に加入しますから、国民年金については「2号被保険者」という扱いになり、自分自身で年金保険料を納付するという事はありません。しかし、自営業者や非正規労働者であれば、年金保険料は毎月自分自身で納付する必要があります。
 この納付率、ここ数年は60%台前半で推移していて、年金制度が根幹から揺らいでいる状態です。

国民年金納付率、最低の62.1% 記録問題・不況響く

http://www.asahi.com/national/update/0731/TKY200907310087.html

 納付率の低下には様々な要因がありますが、その中で少なからざる要因を占めているのが、「どうせ将来の年金には期待できないから」という年金制度そのものへの不信です。現在、社会保険庁は納付率の向上に向けて様々な施策を試みていますが、特別立法によるJAL企業年金減額は、こうした施策を全て無に帰するだけのインパクトを持っています。現在未納状態になっている人が「JALのOBやOGですら年金がもらえなくなるのに、ましてや自分達なんて……」という思考に陥る事は、想像に難くありません。JALの当座の運転資金を確保する為に年金制度そのものを瓦解させてしまっては、正に「角を矯めて牛を殺す」といったものです。



 どうしてもJAL企業年金を減額したいのであれば、やはりJALを一度法的整理して、航空事業のみ新会社に引き継ぐ以外に方法はないでしょう。これならば、年金問題だけではなく、複雑を極めた労使関係もリセットできますし、不採算路線からの撤退や関連事業の売却も一気に進みます。実際、米国ではデルタ航空ユナイテッド航空が連邦倒産法第11章(チャプター11)の適用を受けてから見事に再建を果たしています。
 しかし、この場合でもOB/OGの企業年金は大部分が保護されるものになると思われます。何故なら、企業年金は給与の後払いとほぼ同値であり、給与債権は公債権に次いで高い優先順位で保護されるからです。法的整理により、JALの経営問題は劇的に解決へと進む事になりますが、「JALの高給取りはけしからん」とする大多数のマスゴミやそれに同調する輿論にとっては、何とも後味の悪い結末となる事でしょう。
 とはいえ、私も現実解はこの法的整理しかないのではないかと思っています。特に、労使問題を解決する為には、法的整理により雇用関係をリセットする事こそが、最も明快な方法でしょう。そして、経営再建中だからというエクスキューズの許、大々的なリストラも行えるようになり、不採算路線からは一気に撤退できるというのですから、ともすればANAから「焼け太り」と批判されかねないくらいです。

 なお、この場合に問題となるのがJGCの取り扱いですが、そんなに心配する事はないでしょう。JALの経営再建には固定客の維持拡大が必要不可欠ですが、サービス面で競合他社に大きく出遅れているJALが手っ取り早く固定客を確保するには、JGCが必要不可欠だからです。法的整理と同時にJGCも廃止なんて事になれば、マイル年度の切り替わりと同時にANAへと移行するJGC会員が続出するでしょうし、ANAで上級会員資格を取得するまでに至らないようなライトユーザーであれば、単純にJALカードを解約するまでです。
 そういう意味で、このブログにおける指摘は、半分正解・半分不正解です。

追記:先程の一部テレビ報道で、「日本航空に法的整理の可能性が出れば、乗客が敬遠するのではないか。」というコメントが出ていましたが、私はそう思いません。確かに、航空機に年に一回か二回しか乗らない乗客は、テレビが言う行動を取るかもしれませんが、年間数十回搭乗する乗客は、マイレージの積算を考えると思います。仮に日本航空のJMBダイヤモンドやJMBサファイヤのメンバーが、わざわざ全日本空輸のダイヤモンドメンバーやプラチナメンバーになるため、航空会社を変えてゼロから積算を始めるでしょうか?この方が、アンライクリーに思えます

 法的整理の可能性が出た段階では、即時には移行は発生しないでしょう。現在JAL上級会員として特典を受けているメンバーが、その特典を放棄してまで年度中にANAへと移行するメリットは少ないからです。しかし、年が明けてもJALマイレージバンクの先行きが不明という事であれば、「1年間だけ我慢して」ANA修行に励む向きが出てくる可能性は十分にあるでしょうし、実際各社のサービス変更により「これからはJAL」「これからはANA」なんて乗り換え宣言が相次ぐのは、AirTariffにおける年中行事の1つです。
 更に言うなら、最近はJGCSFCといった終身上級会員よりもJMBサファイヤやAMCプラチナの方が優遇される傾向にあり、アライアンスを跨いだ航空会社の乗り換えは従来よりもハードルが低くなっています。元々、クレジットカード上級会員向けの航空会社終身上級会員制度自体が日本ローカルのものであり、「空の国際化」が進めばこうしたサービスも国際水準へと擦り寄っていく事になりますから、実はJGCSFCも風前の灯なのかも知れません。そんな中で、JGC以外に有効な集客手段を持ち得ていないというのも、ひょっとしたらJALが経営難に陥った一因なのかも知れません。